悪魔の熱情リブレット


 次にティアナが目覚めたのは、翌日の朝だった。

彼女はちゃんと自分の部屋の寝台で寝ていた。

あくびをして寝台から降りたところで昨夜のことを思い出し、急いで窓の外を見る。

「あれ…?」

やはり夢だったのだろうか。

夜中に見た死体が無くなっている。

それどころか、道には血の跡すら残っていない。

「夢…そっか、夢か…」

安堵の溜息をつき、部屋から出ようとした。

「おはようございます」

しかし、出れなかった。

扉の前にはいつの間に入ってきたのか、昨夜見た青い髪の青年シルヴェスターが立っていたのだ。

「あ、ぁ…」

どうやら夢ではないらしい。

「主がお呼びです。行きましょう」

驚きで固まっているティアナ。

「どうされました?…ああ、申し遅れました。自分はシルヴェスター。よろしくお願いします。ティアナ様」

別に自己紹介を気にしていたわけではないが、彼はそうとったらしい。

「さあ、行きますよ」

なかなか動かないティアナに痺れを切らし、少女の手をとり歩き出す。

彼女は自宅から外へと連れ出され、少し歩いた場所にあるこの町で一番大きな家に案内された。

その短い道のりを歩き、気づいたこと。


――誰もいない…?


朝だというのに誰も通りに出ていない。

それどころか、町全体が静寂にのみ込まれたかのようだ。


< 16 / 308 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop