悪魔の熱情リブレット
次にティアナが目覚めたのは、翌日の朝だった。
彼女はちゃんと自分の部屋の寝台で寝ていた。
あくびをして寝台から降りたところで昨夜のことを思い出し、急いで窓の外を見る。
「あれ…?」
やはり夢だったのだろうか。
夜中に見た死体が無くなっている。
それどころか、道には血の跡すら残っていない。
「夢…そっか、夢か…」
安堵の溜息をつき、部屋から出ようとした。
「おはようございます」
しかし、出れなかった。
扉の前にはいつの間に入ってきたのか、昨夜見た青い髪の青年シルヴェスターが立っていたのだ。
「あ、ぁ…」
どうやら夢ではないらしい。
「主がお呼びです。行きましょう」
驚きで固まっているティアナ。
「どうされました?…ああ、申し遅れました。自分はシルヴェスター。よろしくお願いします。ティアナ様」
別に自己紹介を気にしていたわけではないが、彼はそうとったらしい。
「さあ、行きますよ」
なかなか動かないティアナに痺れを切らし、少女の手をとり歩き出す。
彼女は自宅から外へと連れ出され、少し歩いた場所にあるこの町で一番大きな家に案内された。
その短い道のりを歩き、気づいたこと。
――誰もいない…?
朝だというのに誰も通りに出ていない。
それどころか、町全体が静寂にのみ込まれたかのようだ。