悪魔の熱情リブレット
生きた人間の気配がしない。
少女は普段との違いにぞっとした。
「主よ。お連れしました」
シルヴェスターは勝手に大きな民家へと入っていく。
そこには金持ちの一家が住んでいたはずであるが、なぜか居間では記憶に新しい悪魔がくつろいでいた。
「来たね。玩具」
白い悪魔。
アンドラス。
今はカラスの仮面を外しているが、相変わらず前髪が邪魔で瞳が見えない。
「私は玩具じゃないもん…」
気丈に振る舞うが、かわいそうに。
声が震えている。
「ああ、間違えた。この町で唯一生き残った幸運な少女、ティアナだった…」
芝居がかった口調で真実を告げる悪魔。
「え…?え?うそだ!だって死体がなかったよ!昨日見たけど、今は…!」
「死体は僕の部下達が片付けたさ。なんにもなかったように、綺麗にね」
その言葉が本当なら先程、町から感じた違和感は事実なのだろう。
現状が信じられずに愕然とするティアナ。
「今、このシャッテンブルクには僕とシルヴェスター、そしてティアナ…君しか存在しない。シルヴェスター以外の部下は片付け終わってから魔界に帰らせたからね」
そして悪魔は笑った。
「今日からこの町は僕のものだ。君は僕の暇つぶしのために、破壊しないで愛でてあげるよ」