悪魔の熱情リブレット

アンドラスの気まぐれでティアナは生かされた。

しかし全く喜べない。

多くの命の犠牲の上に永らえることは、幸運と言えるのだろうか。

幼い少女には難しすぎて答えなどでない。

彼女がわかることといったら一つだけ。

「ママ…」

大好きだった母がもうこの世にはいないということ。


「私のせいで…ママ、死んじゃった…」


唐突に泣き出した少女に悪魔は大きな溜息を吐いた。

「やれやれ…。人間の小娘の泣き所がわからないよ」

怠そうな声でアンドラスは腹心の部下に命令した。

「シルヴェスター。ティアナのおもり、任せたよ」

「ご自分で育てると言っていましたが…?」

「何?逆らうき?僕の忠実なシモベである君が?」

自分より格上の悪魔であるアンドラスには絶対服従。

一度でも裏切れば、彼は容赦なく苦痛と絶望と破壊を与えるだろう。

「…主の我が儘には慣れています」

シルヴェスターはしぶしぶティアナに目を向けた。

「ティアナ様。泣き止んで下さい。お願いします」

無表情で心のこもっていない喋り方。

ティアナは何だか余計に恐くなった。

涙は一向に止まらない。


< 18 / 308 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop