悪魔の熱情リブレット

「ママぁ…」

何度も母を呼ぶ小さな少女をシルヴェスターは必死であやす。

口調は穏やかだが抑揚があまりなく、相変わらず無表情な彼。

たまにアンドラスのことをチラチラ見るが、白い悪魔は部下の視線を無視した。

シルヴェスターはお手上げだと目で訴えているが、アンドラスが気づいてくれなければアイコンタクトも意味がない。

(主は自分をからかって楽しんでますね…)

この難関をどう切り抜けようか思案する。

そして彼は、ふと馬鹿げたことを思いついた。

だが、馬鹿だの何だの言っていられない。

今ガッチリ少女の心を掴んでおかなければ、今後の生活に支障が出るだろう。

シルヴェスターは覚悟を決めた。

「ティアナ様。自分が貴女のママになります」

この突拍子もない発言にティアナは泣くのを忘れ、珍獣でも見たような表情をした。

「ママ…?」

シルヴェスターを指差し尋ねる。

「はい。自分がママです」

「シルヴェ…?」

上手く彼の名前が言えないティアナ。

「シルヴェスターです。ティアナ様」

「シル…」

「まあ、呼びづらかったらシルでも構いませんが…」

「シルシル!」

これには頷きたくないとシルヴェスターは思った。


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