悪魔の熱情リブレット



 山の上の教会から始まり、墓地、庭園、長い階段、石畳の道、屋敷の中、広場…。

昔のことを振り返りながらアンドラスはアウレリアを連れ回した。

教会では屋根に上り、幼かった頃聴かせた讃美歌を歌った。

教会内にも入り礼拝堂を見せた。

けれど、ティアナの遺体がある小部屋へは案内しなかった。

(ティアナの体…。見せれば思い出す可能性もある…。でも…)


――見せたくない


見せられない。

(あんな悲しいもの、見せられないよ…)


 どの場所よりも思い出が多い屋敷の中ではシルヴェスターやバシン、オセー達も協力し、それぞれの場所を案内したが結果は虚しいものだった。

「この男のことは?どう?」

アンドラスがライナルトを紹介する。

アウレリアに見つめられ、彼はゆっくりと兜を取った。

「俺が、わかる…?」

真剣に考えた末、彼女は頭を下げた。

「…ごめんなさい」

「そうだよな…。俺なんて君の人生に、ほんの少ししか関わってないから…」


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