スロウ・メロウ


カシャンという金属音だけが響き、あおいを降ろすとなんだか無性に泣きたくなった。


「……あおい、餞別」


いつもの俺ならこんなことはしない。掴んだ左手にそのままいちご味のキャンティをやった。


「なんか調子狂うな」

「なんでだよ」


いつも通り優しいだろうがよ、と笑う。この調子、いつものこの調子でいい。


「いつもなら太るぞとか何とか言うのに」

「たまにはこんなこともあんだよ。それに…」


“ お前案外軽いしな ”


言ってしまえば、わかるだろうか?


「それに?」


きょとんと続きを促すあおい。


「なんでもねえよ」


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