君へ、約束の歌を。<実話元>
…夢だって感じると、目を覚まそうとか、考えてみることができる時があるけど。
そんな感覚が全然なくて、本当に現実の出来事みたい。
風が髪を撫でてゆっくり通り過ぎていった時――…
「愛璃ちゃん」
不意に聞こえた、
私の名前を呼ぶ懐かしい声に、
体が固まった。
ぎこちなく、ゆっくり振り向く。
…もう、聞けることは二度とないって思ってた、その声に。
「おはよう!」
…何回、ううん、何十回、
君からこの言葉を聞いたんだろう。
君の口から何気なく零れ出たその言葉が、私にとってどれほどの意味を持つかなんて、
君は、気付きもしないんだろうね。
名前を呼ばれて、おはようって言われることが、あの頃は日常だった。
学校に行けば、
当たり前のようにあった光景。
『祐…ちゃん…?』
恐る恐る、目の前に立ってる人の名前を口にしてみる。
呼びたくても…
応えてくれる人がいなくて、
もう呼べなくなったその名前を。