桜花舞うとき、きみを想う
昼食の時間になり弁当箱を開けると、中身は野菜の煮物ばかりだった。
でもこの日の煮物は、砂糖の配給を手に入れ損ねたとかで甘くなく、うまくなかった。
それでも隣でふかし芋をかじっている広田に比べれば、なんと恵まれていることか。
そう思った矢先、広田がぼくの弁当箱を覗き込んで言った。
「いいなぁ、中園は。俺んとこなんて配給に頼りっぱなしで、ひもじいったらない」
「農家をやってる母の実家のおかげでね。供出やら、まあ何かしらあるらしいが、とくに大きな影響はないようだ。ほら、食えよ」
ぼくは弁当箱を広田に差し出した。
「いいのか」
広田はぼくの手から箸と弁当箱を受け取りながら言った。
「全部は困るよ。ぼくの分も残しておいてくれなくちゃ」
ぼくが笑うと、広田は、
「なんだ、残念だな。平らげてやろうと思ったのに」
と冗談めかして返した。