桜花舞うとき、きみを想う
「そういえば、聞いたか中園。フィリピンが米英に宣戦布告したらしいぞ」
「フィリピンが?へえ、そう」
無関心なぼくに、煮物を飲み込んだ広田がこれみよがしにため息を吐いた。
「お前だって兄貴が徴兵されてるんだ。他人事のような顔をしている場合じゃないだろ」
そうは言うけれど、フィリピンが宣戦布告したことで日本にどういう影響が及ぼされるか、ぼくには見当もつかなかった。
「だからお前は甘いんだ。フィリピンと言ったら目と鼻の先。そこをアメリカに取られてみろ。日本は……」
広田はそこまでひと息に言うと、突然口をつぐんで辺りを見回した。
「いや、何でもない。まあ、そういうことだ。言わなくともわかるだろ」
広田は咳払いをひとつして、再び箸を手に取った。
やがてフィリピンは、広田が危惧していたとおりの結果に終わる。
それを知る由もないそのときのぼくらは、聞き耳を立てられるのを避けるように、その話題を打ち切った。