アゲハ~約束~

2.

 アゲハは、昏々と眠り続けた。

 休日だったから、ちょうどいい。

 おきるまでは薬を飲ませることも出来ない。

 起きたらすぐに、と思って、ルフナは、近くにあったいすを引き寄せ、そこに座って彼女の目が覚めるのを待ち続けた。

 合間に、そっと彼女に触れて熱を測る。

 耳穴式の、すぐに計れる体温計があって助かった。

 熱は、39.2あった。

 微熱どころではない。大熱だ。

 寒そうにしているから、隣のベッド――夏梅のベッド――から、掛け布団を持ってきて、かけて、ついでに自分の羽織っていたシャツをかけた。

 これは、まったくの焼け石に水に過ぎないと判っていたが・・・なんとなく、気分だ。


 うなされている様子はない。

 ただ、静かに眠り続けている。




「・・・大丈夫?」




 そんな彼女が心配でたまらなくて、じっと、彼女のことを見守っていた。



 思い出すのは、幼い日。

 父の出張中に母が熱を出したことがあった。

 そのときもやっぱり、ルフナはこうしてベッドサイドに椅子を引き寄せて、座って、ただ母の寝顔を見ていた。

 氷枕を作ったり、病人食を作って食べさせたり、しなければいけないことはたくさんあっただろう。

 けれど、そんなことには頭が回らなくって。




「・・・進歩ない、オレ。」




 なんだか情けなくなって、腕の中に頭をうずめる。

 でも、心配になると、ほかの事に手が回らなくなるんだ。




「・・・早く・・・起きて・・・。」 




 そうして、薬を飲んで。

 早く直して。

 また、あの、柔らかい笑顔で微笑んで。

 ずっと待っているから。



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