蒼穹の誘惑
「用件はこれだけですか?」

「ああ。それと----」

まだ何かあるのか、とわざと溜息を零せば、電話越しの栄次郎は意味深に一呼吸おく。

「高宮を甘く見ないことだ」

「高宮----?」

「あれはお前が飼い馴らせる相手ではない。一つ優しい助言をしてやろう。高宮は役員全員と繋がっている。足下を掬われないことだな」

そう言い捨てると、栄次郎は電話をブツッと切った。

こみ上げてくる怒りを抑え切れず、みずきは思いっきり子機をなぐり捨てる。

「高宮君が----?」

まさか、とは思いたいが、先程の背筋が寒くなるような彼の冷笑を思い出す。

だが、それはすぐにあの日見せた優しい笑顔に塗り替えられる。

この期に及んで彼の何を信じたいというのだろうか。もともと二人の間には何もなかった。

会社の利益の為に手段を厭わない男だということは、今夜ありありと思い知らされたはずだ。

あれほど情熱的なキスを繰り返しても、彼の冷たい双眸は何の感情も映さず、みずきを侮蔑するように見下ろす。

胸が痛いのはアルコールのせいだと言い聞かせ、みずきは目の前のボトルに手を伸ばした。

その夜、みずきはどれだけバーボンを煽ろうと、酔うことも眠ることもできなかった。



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