蒼穹の誘惑
だが、最後にどうしても聞きたかったことがあった。

彼の近くまで歩み寄り、その手を取る。

「ねぇ、少しでも私のこと好きだと思ったことあった?少しは自惚れてもよかったのかしら?」

バカな質問をしているのは分かっていた。

最後に惨めな女になりたくない、と思いながらも、零れてくる言葉は未練たらしい。

潔い女でありたかったのに----

「いいえ、一度も……」

高宮はそんなみずきの心を切り捨てるように、無表情のまま答える。

「そう……そうよね。でも、私はあなたが好きだったわ。これもあなたの計算だったのね……」

高宮は何も答えなかった。

彼女が魅かれたその瞳は、夜景を映し出し、漆黒に輝く。

最後にあの蒼く輝く宝石のような瞳を見たかった。

みずきは、そっと高宮の項に腕をかけ、軽く唇を重ねる。

以前、高宮がみずきにそうしたように、彼女の想いの全てを込めて----

高宮は拒否することもなく、受け止めることもなく、その場に立ち尽くした。

「ここにあるもの全て処分していいわ。後は任せます」

高宮から離れると、みずきは振り返ることなく社長室を後にし、そのまま長谷川エレクトロニクスには戻らなかった。



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