蒼穹の誘惑
(2)


あれから一ヶ月、みずきは全てを諦め、長谷川から手を引いた。

負けず嫌いではあるが、潔いところも彼女の長所だった。

あの時感じた憤りも悲しみも全て流し、今は、社長という重い鎧から解放され晴れ晴れとしている。

取締役を降りたとはいえ、彼女は長谷川エレクトロニクスの筆頭株主だ。株主総会の案内が届いていたが、出席するつもりはなかった。

今更あの会社の行く末など自分にとってはどうでも良い。

無責任ではあるが、さっさと日本を離れたい、というのが彼女の本音だった。

高宮とのことを思い出すと、まだ心臓が鷲掴みにされたように苦しくなる。

あの男を好きだったが、愛していたわけではない。

そこまでの感情は無かった、と言い聞かせる。

今まで人を本気で愛したことのないみずきに、「愛」という感情の定義など知る由もないが。

ただ、あの瞳に強く魅かれ、彼を心から欲しいと思った。

たった一人の男が心を占領するだけで、他の男とのセックスが苦痛と感じるようになるとは、思いもしなかった。



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