蒼穹の誘惑
(これで良かったのかもしれない)
この感情が深みにはまる前に高宮と離れて-----
ニューヨークに戻れば、彼と会うことなどもうない。
高宮は本望を遂げるのだろう。
全ては彼の計画通りだった。
秘書になったときから……いや、もっと前から計画を練っていたのだろう。
父を憎んでいた、そうはっきり答えた高宮。
全てを知った今なら、不可解だった彼の行動の全てがわかる。
彼に申し訳ない、といった感情などない。
リアリストなみずきは、父が犯した罪まで償う気などさらさらない。親の債務でも法的責任が問われないこのご時世に、親子の情など皆無だった父の為に、頭を下げようとは思わない。
だが、同時に高宮を恨む気持ちもなく、真実を知った今、一層高宮への想いが強くなったような気がした。
「憎悪」とまで呼べる感情を持っていたことに、彼も血の通った人間だったと、何故か安心した。
あの能面のような美しい仮面の下で、もしかしたら彼は激情とも呼べる激しい感情を隠しているのかもしれない。
何に対しても無関心のように思えた高宮が唯一感情を露わにした、それが「憎しみ」だとしても、みずきは彼のことが少し理解できたようで、心が震えた。