蒼穹の誘惑
「少し、お時間大丈夫ですか?」

「そうね、今日はレストランで食事する気分になれず、部屋でルームサービスをお願いしたんだけど、どうしようかしら……浅野君、ディナー一緒にどう?」

「えっ-----?い、いえ、女性のお部屋には……」

「やだ、浅野君、そうじゃなくて。ルームサービスはキャンセルするから、下のレストランでディナーでも、と思ったのよ?」

「あっ……す、すみません。変な勘違いして」

浅野の顔が一気に、紅潮する。

すでに身体を重ねた関係だというのに、こういうフェミニストな一面が浅野らしいと、つい笑みが零れる。

「ここの会席はすごくおいしいのよ。今日は日本食でいいかしら?」

「はい、喜んで」

浅野はぱぁと顔を綻ばせ、さっと手を出す。みずきは、にっこり微笑み、その綺麗な手を取った。

「クス、エスコートは最高なのに、相変わらずかわいいのね」

「みずきさん、からかうのはやめてください……」

腕を絡められ、下から覗き込まれる。彼女はわかっててやっているのだろう。

「ホントに性質(たち)の悪い人だ」

虚勢を張ってもしょうがないが、火照る顔と早鐘を打つ心臓の音をなるべく悟られまいと、浅野はみずきから少し距離をとり、レストランまでのほんの数分、最高のエスコートを努めた。



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