蒼穹の誘惑
「私ね、こんな自分でも人を好きになれるってわかって嬉しいの。長谷川の家に生まれ、全てを手にした時点で、一番大事な感情を失ったと思っていた。でも、どんなに頭で考えても人を想う気持ちってコントロールできないのね」

「できたら、僕だって、こんなところで必死にあなたをくどいていません」

「浅野君、そんなかわいいこと言わないで」

「だから-----」

「クス、かわいいは禁句だったわね?」

「みずきさんは、何だかふっきれたような顔をしていますね?」

「そうね、すっきりしたわ。でも、意外に失恋って気力と体力使うのね、やんなっちゃう」

「それを僕に言いますか?」

「あら、それもそうね」

眉根を寄せてふてくされる浅野につい噴き出してしまう。

「ニューヨークで新しく自分をスタートさせるわ」

「そう、ですか」

にっこり笑った浅野の表情はどこか切なげだったが、みずきはあえて気づかないふりし、最後になるであろう浅野との食事を楽しんだ。



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