蒼穹の誘惑
高宮は、窓の外に視線を移し、手にしたタバコの煙を嚥下する。

かつてみずきがよくこの景色を眺め、「全てがマッチ箱みたいだ」と呟いていた。

彼女は、社長という地位にも、『長谷川』にも全く興味がなかった。

贅をつくした生活をしていながら、それを手放すことに何の躊躇いもない。

ただ、ゲームを楽しんでいただけだ。

そのせいだろうか、高宮は、最終的な勝利の満足感があまりにも小さいことに気付く。

「手に入れてしまったらあっけないものだ」

灰が落ちそうになり、灰皿を探したとき、フロア全体が禁煙なことに今更ながら気付いた。

そう言えば、意外にもみずきはたばこを吸わない。酒は浴びるように飲むが、たばこは大嫌いらしい。

今夜はやけに彼女のことを思い出してしまう、とつい苦笑いがこみ上げてきた。

今日、彼女がニューヨークへ経ったからだろうか。

感傷的な気分になりつつある自分を諌めるように、タバコを携帯灰皿に押し込んだ。

社長室の電気を消し、鍵をかけようとしたとき、高宮のスマホの着信が突如静寂を破った。




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