蒼穹の誘惑
片桐は、その後ろ姿を見送ると、キッチンカウンターに置かれたスマホを手に取る。

「片桐だ。頼みがある―――」

通話相手に的確に指示を与えるその表情に感情はない。

それは、旧財閥の流れを組む日本屈指の大企業、片桐グループ総帥『片桐康平』の姿――――

「あぁ、念のためだ。最悪の事態になるまで動くな。高宮には借りが多い。ここであいつに思いっきり貸しを作っておくのもいいだろう」

通話を終えた片桐は、ふっと表情を緩めるとスマホをキッチンカウンターに戻す。

「明日、明後日の新聞の一面が楽しみだな」

そう低く零す姿はどこか楽しそうだ。

冷蔵庫から愛飲しているボックビールを二本手に取ると、片桐は愛しい妻が眠る寝室へと向かった。



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