蒼穹の誘惑
「はっ……最高だな。この仕事をしていて長いが、こんな上から目線の女のお願いは初めてだ」

「縄を解いたということは、私に何かして欲しいんでしょ?何?」

「生意気だが、賢くて助かるよ」

仁科はどこか楽しそうに、みずきを覗き込む。口元は笑っているのに目がひとつも笑っていない。

瞳の奥の鋭利な冷たさに、この時初めてこの男に恐怖を感じた。

必要がなければ、絶対に自分に危害を加えないだろうが、必要とあれば、躊躇なく制裁をくだすだろう。

みずきの感情を読んだように仁科は笑った。

「ホント賢いな、お嬢さんは……」

仁科は立ち上がると、ブリーフケースから一枚の書類を出した。

「要件は簡単だ。ここにサインしろ」

差し出された書類を手に取るが、署名欄より上は、カバーがかけてあり、見えないようになっている。

「ねぇ、何の書類か判らないものにサインする馬鹿がいる?せめて条文を読ませてよ」

「それは指示に入っていない。この状況であんたに選択肢があると思うか?」

「ないわね。でも嫌よ」

みずきは、まるで自分の立場を忘れたように、仁科にペンを突き返した。



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