蒼穹の誘惑
廊下に出ると、前方に蹲る黒い物体に、心臓がドクンと鳴る。

よく見れば、みずきを殴った大男が壁にもたれるように倒れていた。口から水のようなものを噴き出したまま意識はなさそうだ。

瞠目し、恐る恐るその横を通りすぎる。

「……浅野君が?」

「あぁ、あの男ですか?はい。恰好よく素手で倒したと言いたいところですが、Csガスです」

「Csガス?」

「俗に言う催涙ガスの一種ですよ。ただ、普段使用されているCnガスより遥かに強力で、破壊力があります。しばらくは起きれないでしょう」

どうして浅野がそんな物騒なものを持っているのだ、と見つめれば、彼はにっこりと笑った。

「護身用にと常に父から持たされていました。靴底やパンツの中に隠せるくらい小さいスプレーなんで。こんなときにあの父に心から感謝するとは思いもしませんでした」

「そ、そうなの……」

流石インターステイトの御曹司だけある。浅野は軽く言うが、その特殊ガスは軍事用だろう。素人の手に簡単に入るものではないはず。

「みずきさん、急ぎましょう」

浅野は、困惑しているみずきにかまわず、外に続くドアへと歩みを進めた。




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