蒼穹の誘惑
「ええ、円高の中にあって国際競争が著しく下がっていることだけが原因ではありません。商品力の面ではいまだ優れた面もありますが、サム○ン、L○エレクトロニクスの進出は極めて目立ちますね。日本の各メーカーの動向も変わってきています。従来のように大きなテーマがあり、そこに全メーカーが投資するスタイルではなくなり、多様なテーマの中から各メーカーが今のトレンドとなりそうなテーマを選んで勝負するようになってきています。それに長谷川も対応していかなければならないことも重々承知していますわ」

それを聞いた浅野が一呼吸おき、ゆっくり尋ねる。

「長谷川は技術は素晴らしいが、考え方が古い。あなたに説得できますか?私の質問はこれだけです」

浅野の意図していることは分かっている。古い経営理念、時代錯誤な考え方の重役陣を説得せきるのか、ということだ

「もちろん説得します。従来の方針では長谷川はつぶれます」

そう断言し、鋭い視線を送る浅野を、みずきは真っ向から見返した。

しばしの重い沈黙が流れる。

それを切ったのは、浅野のくったくのない笑顔だった。

「長谷川社長、あなたならできそうですね。宜しくお願いします」

「それは、アプリケーションソフトの件と受け取って良いのでしょうか」

賽は投げられ、答えは出た。みずきはとびきりの笑顔をこの若い社長に送った。

「勿論、です。それでは内容を詰めましょうか?」

浅野の頬が一気に赤くなる。これを計算ではなく素で見せているとしたら、すごい天然だ、とみずきは心の中で驚いた。


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