蜜色チェーン―キミと一緒に―
「そっか。来週からが忙しいね」
「そ。由香が受付で来た客全員を追い返してくれれば助かるんだけど」
「……私がクビになるでしょ」
顔をしかめると、拓海くんが「間違いなくクビだな」って笑う。
いつも浮かべている営業スマイルじゃない、柔らかい笑顔。
私は、今まで手にしてきたどんなモノよりも、この笑顔が一番大切だ。
切ないほど弱い拓海くんが、一番大切。
「ねぇ……そういえば、笹川専務の件ってどうなったの?」
夕食を作ろうと、キッチンに向かいながら聞く。
L型になっているキッチンは、一人暮らしでは半分以上を持て余すほどのスペースがある。
部屋も2LDKで、リビングダイニングも広いから、一人暮らしというよりは新婚だとか家族向けの造りなのかもしれない。
広さも新しさも、立地条件もいいこのマンションを、拓海くんはひとりで借りている。