蜜色チェーン―キミと一緒に―
当時10歳だった拓海くんがおばさんに受けた仕打ちは……。
13歳の私にはショックが強くて、拓海くんが話してくれたひとつひとつの言葉を、今でも鮮明に覚えてる。
拓海くんは、お母さんの幸せだけを心から願ったのに、お母さんは拓海くんの気持ちなんて考えていなくて。
それがあまりに可哀想で、悲しかった。
社長との面会も、おばさんが今の家庭を壊したくないっていうのを理由に断っていたらしいから、拓海くんは家庭の中でひとりぼっちで。
そんな家族から逃げ込むみたいに、私の部屋に家庭教師をしにきていたのかもしれない。
「――何考えてるの?」
急に声をかけられてハっとする。
いつの間にかすぐ後ろに立っていた拓海くんが、私の頭の横から覗き込むようにまな板の上に視線を落としていた。
「ううん。何も。ちょっとぼーっとしちゃってただけ。
ごめんね、すぐ作るから」