蜜色チェーン―キミと一緒に―


「カっとなって手が……」
「手……って、殴ったって事ですか?!」
「気付いた時には、“そんなに信じられないなら、一生近くにいて私を試してみたらいい!”って拓海を殴っていた。
ハっと我に返った途端、今度は拓海に殴り返されてね。ドタバタした」


ドタバタって……そんなレベルじゃない。
大人の男同士で殴り合いなんて、笑ってできる話じゃない。

けど、社長は苦笑いを浮かべながらもなぜか嬉しそうに見えた。


「しばらく揉みあいになったが、部屋を出る時拓海が言ってくれたんだ。
“仕方ないからもう少し試してみてやる”って。
おおげさに聞こえるかもしれないが……その言葉が、涙がでるほど嬉しかった」
「そうですか……」


社長が穏やかな顔して微笑むから、私もつられて笑顔になる。

殴ったって聞いた時は、お母さんや再婚相手に殴られた事のある拓海くんだから心配になったけど。
社長の拳に込められた想いに、拓海くんも気づいたのかもしれない。

お母さんや再婚相手の手にはなかった温かさに。



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