蜜色チェーン―キミと一緒に―


ただの勘違いかもしれないって何度も思ったけど、一度そんな風に思うと、拓海くんの全部が演技に見えて仕方なくて。

そんな拓海くんに気づいてからは、意識して拓海くんの表情を見るようになった。
私といる時にも壁を作っているのか、気になって。


『拓海くん……悩み事でもあるの?』
『突然どうかした?』
『なんか、拓海くんが演技してるみたいに見えるんだもん』


今なら、もっと拓海くんを傷つけない言葉を選んだりしたのかもしれないけど、当時まだ子どもだった私には、直球しか投げられなくて。

でも、“まだ子ども”だったおかげか、拓海くんは私に壁を作ろうとはしなかった。


誰にでも壁を作って距離を取りたがる拓海くんを知っているから、あの時なんで私を近寄らせてもらえたのか今でも不思議だけど。

多分、家庭教師のバイトが終わればもう会うこともないだとか、まだ子どもだから何話しても分からないだとか。
そういう気持ちがあったからだと思う。



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