蜜色チェーン―キミと一緒に―
拓海くんは、“お父さん”も“親父”も、一度も呼んだ事はない。
再婚相手の人とは仲が悪かったし、本当のお父さんの事も認めていないからか、そう呼んでいるのを聞いた事がない。
いつも、“社長”って呼んでるから。
けど、拓海くんは平然と嘘をついて笑っていて……。
その事に、胸が痛かった。
拓海くんが社内で本当の自分を出していないのは知ってる。
ううん。社内でだけじゃない。
誰にも……もしかしたら、私にさえ、本心で接していないのかもしれない。
傷つけられるのがイヤで。
傷つけられても、演技の自分なら大丈夫だから。
それは知っていたけど……。
ここまで自然に嘘がつけるのを目の当りにしたら、言葉が出なかった。
拓海くんの生活の中には、当たり前のように嘘が混ざってるんだ。
それを痛感して、切なくなった。
私に見せてくれてる顔の、どこまでが本当の拓海くんなんだろう。