蜜色チェーン―キミと一緒に―


拓海くんは、“お父さん”も“親父”も、一度も呼んだ事はない。

再婚相手の人とは仲が悪かったし、本当のお父さんの事も認めていないからか、そう呼んでいるのを聞いた事がない。

いつも、“社長”って呼んでるから。


けど、拓海くんは平然と嘘をついて笑っていて……。
その事に、胸が痛かった。


拓海くんが社内で本当の自分を出していないのは知ってる。
ううん。社内でだけじゃない。

誰にも……もしかしたら、私にさえ、本心で接していないのかもしれない。
傷つけられるのがイヤで。

傷つけられても、演技の自分なら大丈夫だから。

それは知っていたけど……。
ここまで自然に嘘がつけるのを目の当りにしたら、言葉が出なかった。

拓海くんの生活の中には、当たり前のように嘘が混ざってるんだ。
それを痛感して、切なくなった。


私に見せてくれてる顔の、どこまでが本当の拓海くんなんだろう。




< 44 / 285 >

この作品をシェア

pagetop