月とバイオリン
肩からショールを外すとリースに掛け、落ちていた手も拾い上げる。

ふわりと。

優しい動きだった。


「僕は何も」

「良かった。とにかく、みんな無事なのね。ごめんなさい。お邪魔どころか大騒ぎに巻き込んでしまった様子だわ」

「いえ、僕が」


 宙を仰いだのは、吹き込んだ風のためかもしれない。

ウィリアムの髪を風が揺らし、二人はそれに気がついた。

外の匂いが入ってきている。

空の空気がこの部屋にも。


「言葉は難しいけれど」

躊躇うように唇が震える。


「僕が、みなさんを巻き込んだのかもしれないと思っているんです。……今は」
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