契約の婚約者


「奈央を幸せにしないと……」


陳腐な台詞を言ったもんだ、と苦笑いがこみ上げてくる。


もう一発殴っておけばよかった、と後悔するが、先程までのイライラが少しだけ緩和された気がした。



会社のエントランスを出て、ふと携帯を取り出した。


昨日の着信履歴からその番号を押す。


「ねぇ、仕事の帰り、うちのマンション寄って」


相手の返答も聞かず、沙希はそのまま電話を切った。

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