叶わない恋。
「昔っからあたしと兄貴のことはほったらかしでさ。
いつでも患者さんのことしか考えてない。
桐ちゃん、覚えてる?
個人懇談のとき、うちの親、急患でこれなかったじゃん?
あぁいうことさ、小学生の頃もあったんだよ。」
桐ちゃんは少し切なそうな顔をした。
きっとあたしの気持ちは分かんないよ。
桐ちゃんにはさ。
「さっき言ったじゃん??
生まれて3ヶ月に満たないときに預けられた、って。
それは別にいいんだよ?
そんなことはね。
だって母さんも父さんも仕事が好きだって知ってるから。
でもさあたし、幼い頃の記憶がほとんどないんだよ。
家族で遊びに行った、
とか、そんなことなかったから。
あたしが覚えてるのは保育園にいるあたしだけ。
保育園の先生と遊んだ記憶。
……それしかないんだよ。
小学生のころだってあたしの中には兄貴と遊んだ記憶しかない。
いつもいつも帰りを待ってた。
眠たい目を擦りながら母さんの、
父さんの帰りを待ってた。
でもいつも寝ちゃって。
起きたら朝になってて、そのころに丁度2人とも帰ってくるんだ。」
話しているうちに胸が苦しくなってきた。
フツフツと湧き上がっていた怒りは、とっくに頂点を通り越していた。
怒りを通り越すと悲しくなるんだな…
と、冷静に考えているあたしがいる。