佳き日に
[1]
鼻がスッと通っていて、本当にこの黒い男は綺麗な顔だな、と場違いにも琥珀はそんなことを思っていた。
多分、この黒い男が銃を降ろしてくれた安心感からそんな余裕ができたのだろう。
茶色のビー玉のような目が、しっかりとこちらを見ている。
「なんでも、やるんだな?」
凛とした声でそう尋ねてくる。
なんのことか理解するまでに少し時間がかかった。
さっきの私が叫んだ言葉のことだ。
「なんでもするから殺さないで!!」だ。
琥珀はすぐに頷いた。
「な、何でもします。」
何か危険なことをやらされるかもしれない、という不安はあった。
だが、黒い男に対する恐怖の方が大きかった。
整った顔で、表情ひとつ変えずに人を殺した。
琥珀の頭にはしっかりとその恐怖が植え付けられていた。
「本当か?」
「本当、です。」
危ないことだろうか。
多分、かなり危険なことなのだろう。
恐怖で琥珀はぶるっと身震いしてしまう。
「名前は?」
「は?」
「は、という名前なのか?」
「あ、いえ、違います!!琥珀です。」
「名字は?」
「柳、です。」
琥珀がそう答えると男は一人で納得したように頷いた。
話し方のテンポなのか、声のトーンなのかがズレてるなぁ、と琥珀は感じた。
無頓着、無関心が感じられる。
「一週間後、ここに来い。」
「え、はい。」
何時の間にか男はすっと振り返り路地から出て行こうとしていた。