佳き日に
桔梗が入りそうな部活はなんだろうな、と鉛丹は考える。
だが、結論が出る前に桔梗が話し始めた。
「兄さん、福島に来る前に新幹線で話したこと覚えてます?」
「なんとなく。」
「学校とか、行ってみたいとか思わないのかって聞いてきたじゃないですか。」
聞いたような聞かなかったような。
鉛丹は曖昧なまま頷いた。
女子中学生の声はもう聞こえない。
話しながら歩いているはずなのに彼女達の進むスピードは速い。
こちらが取り残されたみたいだ。
「あの時は否定しましたけど、本当は、ずっと思ってたんですよ。学校行って、勉強して、普通の生活っていうんですかね。普通の人と同じような生活がしたいな、とはずっと思ってました。」
「へぇ。」
相槌を打って、横にいる桔梗の顔を見やる。
その顔は、まっすぐに遠くの夕陽を見つめていた。
「だから、変えてみせます。」
決意とか、意志とか。
桔梗の茶色い目には、力強い何かがあった。
「メモリーズも普通に生きていける社会に、絶対、変えてみせます。」
若者たちの歌が聞こえるか?
どこかで聞いたフレーズが鉛丹の頭に浮かんだ。
なんだっけか、これ。
なんかの歌だったような。
少し鉛丹は考えたが、なんだったのかは思い出せなかった。
でもきっと、社会を変えてきたのは強い意志を持った若者たちだったんだろうな。
桔梗みたいに。
夕陽がまぶしくなってきて、目がじん、と痛んだ。
鉛丹はゆっくりと目を閉じる。