佳き日に
そこにいたのはワンピースに裸足にマスクという、なんともアンバランスな格好をした5歳くらいの女の子。
もう秋だというのに、ワンピースの上にストールのような布を巻き付けただけで寒くないのだろうか。
菘がそんな心配をしても、本人はいたって無表情。
虚ろな茶色い双眸からは何の感情も読み取れない。
彼女もまた、メモリーズなのだ。
5歳にして依頼金が数百万の殺し屋、萩。
つまり、殺し屋としてもステータスはほぼ菘と同じくらいということだ。
自分よりも14も下の子が同じくらいの位置にいるのはなんだか複雑だ。
悔しい、というのもあるが、末恐ろしい、とも思う。
緩慢とした動きで萩がスケッチブックを持ち上げた。
たどたどしい字で何か書いてある。
どうやらさっきのマジックの音は萩がこれを書いていた音らしい。
『つばきのでんごん。くちなしはだめだった。』
「へぇ。」
スケッチブックを読み終えた菘はそう一言口にしただけだった。
だめだった、ということは、失敗したということ。
つまり梔子は死んだのだろう。
親の敵討ちに行くと聞いてから何も連絡がなかったので予想はしていたが。
やはり赤い女は強かったのだろう。
とはいえ、こちらは戦力を失ってしまったことになる。
どうしようか、と菘が考え込もうとしたらまたキュ、キュ、とマジックの音がした。