佳き日に



『おかあさんのでんごん。』


スケッチブックにたどたどしく書いている萩の手元を見ればそう書いている途中だった。

ふ、と菘は眉を寄せる。


「お母さん?」

疑問をそのまま口に出せば、萩はゆっくりと顔をこちらに向けた。
萩は顔の半分はマスクによって隠されているが、きょとんとした表情になっているのは分かった。

「お母さんって、誰?」

菘は再度問う。

ようやく質問の意味が分かったのか、萩はキュ、キュ、とスケッチブックにマジックを歩かせる。

『はいかぐら。』

「は、灰神楽?」

萩はコクンと頷く。

え、え?と菘は一人混乱したままだ。

萩と灰神楽が殺し屋としてコンビを組んでいるのは有名だ。
どちらも女で、ナイフ使いに狙撃手。
5歳の萩と、20代後半の灰神楽。
年の差コンビとも裏で言われており、何故コンビを組む事になったのかは業界でも謎として扱われ、様々な推測が交わされた。

本人たちに聞けばすぐ分かることなのだが、萩も灰神楽も口下手で、スケッチブックの文字以外では意思疎通が出来ない。

ぶっちゃけて言うと、この二人との会話はめんどうなのだ。

中にはマジックのキュ、キュ、という音が嫌いな人もいるかもしれないが。

そんな、ここ数年殺し屋業界のミステリーとして扱われてきた謎の真相はいたってシンプルだった。

親子。
灰神楽が母で、萩が子ども。
なんともあっさりな真実に、菘は少し力が抜ける。

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