佳き日に
[5]
バタンッと音がして閏は飛び上がる。
いつの間にかソファーで寝ていたようだ。
少し頭がぐわんとするが、嬉しそうな琥珀の声に現実に戻される。
「閏さんっ!30km終わりました!」
「え、あ、おめでとうございます。」
ほぼ反射的に閏は事務的な賛辞を送った。
琥珀は本当に今終わったばかりなのかゼエゼエと息が乱れており、顔は真っ赤だ。
「今日のトレーニング終わりですね。」
そう言ってやったーと歓喜する琥珀の姿を見ていたら、昨日の雪の言葉が思い出された。
「利用する。」
その言葉を言ったときの雪は、特になんの感情も持ち合わせていなかった。
まるで、柳琥珀という少女を道具としてしか認識していないような。
確かに本物の赤い女を探すなら、他のメモリーズの気を逸らすのに偽の赤い女がいた方が便利だろう。
だが、きっと雪はこの少女、柳琥珀が死んだとしても大して困らないだろう。
便利だったものがなくなった、ぐらいにしか思わない。
昨日の雪は、そんな目をしていたのだ。
「閏さん、気分悪いんですか?」
「あ、いえ、大丈夫です。」
琥珀に顔を覗き込まれ自分が暗い顔をしていたことに気付く。
いけない、いけない。
閏はすぐに気持ちを切り替える。