佳き日に
『十月十一日。
茜の記憶を盗った。
俺に関すること、家族の事故のことは書き換えておいた。
茜は家族が死ぬ前の日、家族と口論していた。
というか、彼女が一方的に家族に不満をぶつけていただけだった。
茜はそのことで罪の意識に苛まれていたのだろう。
茜の記憶を盗ったことが正しい行動だったのかどうかは分からない。
だけど、一つだけはっきりと、正しいと確信を持って言えることがある。
俺が彼女の前に現れないようにすること。
明日、この街を発つ。』
噂では聞いた事があった。
雨は、盗む記憶を選び、新しく書き換えることができる、と。
本当だったのか、と琴は驚いた。
今まで半信半疑だった。
というか、雨が最強だという話を誰かが誇張したのだと思い込んでいた。
今まで人から聞いた話でしか雨を知らず、最強と言われるだけあって強いんだろうな、とは考えていたが、その姿はどこか曖昧だった。
だが、日記を読み進めていくうちに、イメージははっきりしてきた。
最強で、他のメモリーズの誰も持ち得なかった能力をもった雨も、悩んだり迷ったり、一人の少女を救うことに四苦八苦している。
最強なくせに、女の子一人慰められない、なんて。
琴は急におかしくなって笑ってしまった。
どんな天才も、美人も、誰だって幸せになりたくて、幸せにしてあげたくて、一生懸命なのだ。
苦しむことだってあるだろう。
おさえきれなくて、琴はついに笑い声をあげた。