佳き日に
ぐるっと家の中を見回す。
棚一面に整頓された本。
古い紙の匂い。
お気に入りの、人魚姫。
そして、いつも茜が座っていたレジ近くのイス。
「………。」
何かが足りない気がした。
もう一つ、お客さんが座ってじっくり読めるようにと置いておいた赤いイス。
そこに、何かが、誰かがいた気がする。
ぽっかりと空いたその空間の違和感。
「茜ちゃん、荷物運ぶの手伝ってくれない?」
「うん、分かった。」
何か、大事なものを忘れている気がする。
そう思っても、茜はその大事なものが何なのか、自分でもよく分からなかった。