佳き日に




[6]



椿には誰にも言ってないことがあった。
別に秘密にしているわけでもないので、誰にも聞かれなかったから話すタイミングがなかったと言った方が正しいだろう。

一度チラッと菘とそのことに関係のある話をしたがすぐ別の話に移った。
結局、誰にも言わないままだ。


椿は双眼鏡であるビルを見ていた。
ついこの間まで椿が拠点としていたビル。

そこに今、赤い女がいる。

菘のターゲットだ。
だが、菘は根っからの堅実派で警察が大勢来ると椿が言えばすぐ逃げる準備を始めた。

「椿逃げないの?」

「あぁ、あたし近くのビルから観察するつもりだから。」

「危ないって‼馬鹿じゃないの!?」

相変わらずの菘にあの時は笑ってしまった。

同時に、罪悪感も。

本当は、やってくるのは大勢の警察ではなく菘のターゲットである赤い女だ。



< 255 / 627 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop