佳き日に


[4:33years ago]




家族が死んでから一ヶ月。

悲しみとは、予想もしないところで襲ってくる。

まだ重い瞼を上げ洗面所の鏡に映る自分の寝癖を見てふぁぁ、と茜は一つアクビをする。

悲しみとは、不意に、こんな朝の洗面所にもやってくる。
お父さんとお母さんが使っていた歯ブラシが無くなっていること。
お母さんのコンタクト洗浄液がなくなっていること。

そんな些細なことにも胸がキュッと締め付けられる。

パシャリ、と冷たい水を顔にかけ、茜は目をゴシゴシとこする。

だいぶ脳が覚醒した気がする。
顔を上げ、鏡に映る自分と至近距離から見つめ合う。

家族がいなくなって、おじいちゃんとおばあちゃんと過ごすことになった。
家事も茜がたくさんやるようになった。
出来るかぎり祖父母には楽をさせてあげたいし、家族のお墓にも定期的に花を供えてあげたい。

これからのことを考えれば茜の頭には次々とやることが浮かんでくる。

だが、なんだろう。
何か大事なことを見落としている気がする。

茜はその奇妙な感覚に眉を歪める。



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