佳き日に




ナイフを持った、黒髪の女。

「チッ。」

一発で仕留められると思ったのか、舌打ちされる。

生憎、私は簡単に死んだらいけないので必死に逃げさせてもらう。

女がナイフを引き抜きエナカの腕から血が噴き出す。

鉄の匂い。
臭いな、と思いながらエナカは腕から流れる血を口に含む。

女は戦いにあまり自信がないのか数歩後ずさる。
最初の一発で全て終わらせるつもりだったのだろう。

確かにエナカは油断していたし、殺気を抑えられていれば確実にやられていた。

そこでエナカは女の目が茶色いことに気付く。
クリクリしていて、ビー玉みたいな。
メモリーズか、厄介だな。

口の中が、自分の血の匂いで溢れかえる。
気持ち悪い。


口に血を溜めたまま、エナカは一気に女との間合いを詰める。

そして、


「っうぇ!」

思いっきり、女の顔めがけて血を噴き出した。

女はすごく気持ち悪そうな声を出した。

そりゃ嫌だろう。
他人の血液を顔にかけられるなんて気持ち悪いことこの上ない。

ごめんよ、と思いながらエナカは走り出す。
女とは逆方向に。
逃げよう。
四十代後半の私が二十代の若者メモリーズに勝てるはずない。


口の中に未だ残る血の味に、エナカは嫌悪感を隠せないでいた。



< 280 / 627 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop