佳き日に
ブウンと音がして、振動が体に伝わる。
せんべいが車を発進させたようだ。
前を見て運転するせんべいの横顔を見つめ、エナカは声をかける。
「……せんべい。」
「なんだよ。」
人の気配がない家が次々流れていく。
忘れられたかのように草の蔓に絡まれているそれらを見ると、なんとも言えないような気持ちになった。
「さっきの話だけど。」
「どの話だよ。」
「私に田舎に行けって言った話。」
「あぁ、それか。」
閑静とした住宅街を抜ければ少し大きな通りに出て、人が多くなった。
「私、死ぬまであの家にいるつもりだから。」