佳き日に




せんべいの言ったことの意味を汲もうと色々と考えるエナカに構わず、せんべいはさらに続けてこう言った。

「だってお前、俺が特技はなんだって聞いたとき、ありえないこと言っただろ。」

エナカは少し目を上にあげ、そのときのことを思い出す。
意外にも、そのときのことはちゃんと覚えていた。

「息を止められます、のこと?」

「そうだ。普通、バク転出来ますだとか剣道の大会で一位になりましただとかいう、自分の運動神経の良さや強さに自信がある奴らの中で、お前だけ異色だったんだ。中学高校と帰宅部でアピールポイントが息を止めることだとか、すぐに殺されると思った。」

あの時せんべいは表情を崩さずに話を聞いていたのに、内心ではそんなことを思っていたのか。


エナカは懐かしいやら恥ずかしいやら、少し下を向く。
よくよく考えてみれば、せんべいはむかしよりも表情が豊かになった気がする。

「まぁ、俺の予想は外れて、お前は今日まで生きてるんだけどな。お前、見た目によらず強かったよ。」

そう言ってせんべいは黄色い歯をみせた。

エナカは今度こそドアを閉める。

それから、ブロロロロと音をだしてせんべいの車は遠ざかっていった。



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