佳き日に




失敗はしていないはずだ。
寧ろ上手くいった。

萩と灰神楽、二人のターゲットはちゃんと殺したし、琥珀も無傷ではないが生きている。
ちゃんと雪に言われた通り、人差し指を上に向ける合図で灰神楽の遺体を落とした。
落ち度はなかったのだ。

琴は足を組み、貧乏揺すりする。

仕事は完遂したのに何故こんなに苛立つのか。


薄々分かってはいても、認めたくない。
カチャ、と音がして、仄かに甘い匂いがした。

「いりますか?」

そう言って閏が差し出してきたのはココアだった。
白い湯気が出て、その湯気さえも甘そうに見える。

琴は無言でそれを受け取ると一口飲んだ。
予想よりは甘くない。
少し苦味がある。
これなら胸焼けすることもないな、と思った。



「……今なら、雨さんの気持ちがよく分かります。」

ポツリと呟いた閏の言葉に、敢えて琴は反応しなかった。
ただ、茶色く濁ったココアを見つめる。

「こんな時に、適切な言葉をかけてあげられない自分が嫌になります。」


自虐的に笑う閏の声を聞いていたら、琴の心は次第に穏やかになっていった。



< 341 / 627 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop