佳き日に





「人が壊した自然は、緑の草原となった。それで戻ったように思われるけど、全然違うんだ。人が入る前の特有の深い緑と黒の陰鬱な雰囲気の森は、もう戻らないんだ。」


二匹になってしまった山犬も、きっとあの後世代を繋げることができず絶滅してしまうだろう。
弱い者は滅び、強い者が生き残っていく。


「弱肉強食ってのは、正しい世界の在り方だと思う。強い奴らが生き残る、それでいいはずなんだ。」

せんべいが指を卓上の瓶にのせる。
カチャ、カチャ、と二回叩いた。


「だけどさ、俺はあの映画を見たときあの残った二匹の山犬たちにはこれから先も生きていてほしいって思ったんだよ。」

瓶の中の透明な液体が揺れる。
光がそこに反射してきらめく。


「滅びゆく運命であっても、山の神が死んで森が姿を変え、生きる場所を失ってしまったとしても、生きていてほしかった。」

せんべいは微かに口角を上げ黄色い歯を見せた。
お前もあの映画をみたら絶対山犬を助けたくなるぞ、と言っているようだった。



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