佳き日に
「琥珀さん読むの速いですね。」
閏が声をかければ琥珀は軽く微笑んだ。
チラリと内容を覗いてみると、もう雨と茜が別れたところだった。
「途中まで読んでみての感想は?」
閏がそう聞けば琥珀は少し考える仕草をした。
「雨が、気にしすぎだと思った。メモリーズだとか人間だとか。」
メモリーズだから一緒にいられない。
そう思って茜の元を去った雨。
琥珀の口調は責めるようなものではなく、どこか悔しげだった。
「閏はアダムとイヴの話知ってる?」
「リンゴを食べて楽園を追放された話ですか?」
「そう、それ。」
閏はアダムとイヴの詳しい話は知らないが大まかな流れは知っていた。
琥珀は雨の日記の紺色の文字をなぞりながら話しだす。
「この前倫理の時間に先生がその話をして、アダムの元の言葉はアダマで、塵っていう意味なんだって。」
「塵ですか?」
「そう、塵。人間なのに何で塵なのかっていうとね、神様が一番始めの人間、アダムを作ったときの作り方に由来してるの。」
また神様か、と閏は思った。
実際はそこまで神様という単語は聞いていないのだが、印象強く残っているのだろう。