佳き日に
「エナカさんは、せんべいというコードネームの男を知っていますか?」
「知ってるよ。」
突然出てきた上司の名前に、エナカは一瞬で頭を回転させる。
せんべいから受け取った小さなガラス瓶。
なんだかあれが関係してそうだ。
「ついこの前、そのせんべいという男が政府のとある機関から重要なものを盗みました。盗まれただけだったら予備もあったのでまだ良かったのですが、彼はそれにさらに手を加えました。そして邪な物に変えてしまったのです。」
芝居がかった白川の口調。
「せんべいはその邪な物を隠しました。俺たちはその在り処を聞き出すためにせんべいを捕まえようとしたのですが、なかなか捕まらなくて。でも、先日あなたの家から出てきたところを捕まえられました。」
「……捕まったせんべいは何て?」
「始終無言でした。拷問してもダメだったらしいです。日付けを跨ぐ前に舌噛み切って自殺されました。」
白川を、殴りたいと思った。
でもここで殴ってしまったら、せんべいが命をかけて守ったものが、エナカに託したことが、政府にバレてしまうかもしれない。
くそ、せんべい、めんどうなことを私に押し付けて死ぬってどういうことだ、とエナカは心の中で頭を抱える。
文句はたくさんある。
でも、ここまできたらもう乗りかかった船だ。
せんべいの最期の博打に乗ってやろうと思った。