佳き日に
「送っていきますよ。」
「いや、いい。大丈夫。」
エナカは素早く立つと速足で店から出る。
日差しは強いのに風はビュウビュウと肌寒く、考えがうまくまとまらない。
せんべいは政府に捕まる前、つまり最後にエナカの家を訪れた。
せんべいが残した手がかりは何だ?
エナカの頭に小さなガラス瓶が浮かぶ。
あれをメモリーズに飲ませること。
他に何か、手がかりはないのか。
あれだけじゃ詳しいことが全く分からない。
ましてや、せんべいがやろうと目論んでいたことなど見当もつかない。
冷たい風に鼻の頭がむずむずした。
赤くなっているのだろう。
『お前、見た目によらず強かったよ。』
ふいにせんべいの言葉が思い出された。
視界がボヤける。
エナカはずずっと鼻を啜り、唇を噛んだ。
言いたいことだけ言って、あっさりいなくなって。
ふざけんな、と叫びたかった。
天国だとか、死後の世界だとか、そんなもの信じていなかったけど、もしもあるなら死んだ後に思いっきり文句を言ってやろう。
めんどうなこと押し付けて自分は死ぬって、都合良すぎるんだよこのやろう、それから、グスッとまた鼻を啜り目をこする。
散々罵倒してスッキリしたら、それから、あんたには生きててほしかったって、泣きわめいてやろう。
せんべいが罪悪感と困惑で狼狽えてくれればざまあみろだ。
通り過ぎる人たちに顔を見られないよう、エナカは俯きながら歩く。
手がかり。
何か、ないか。
せんべいの言葉を一つ一つ思い出す。
せんべいは、山犬たちに生きててほしかったと言った。
そして、エナカはパッと閃いた。
よくある、頭の上で豆電球が光るように。
「映画!」