佳き日に




呆れた気持ちで声をかける。


「ねぇ、雪。」

「………なんだ?」

ハナから返事は期待していなかったが、長い沈黙の後雪が応えてくれた。
だが、その声は眠そうだ。

別に聞いてもらわなくても構わない独り言に近いことを言うつもりだったので、琥珀は雪の様子など確かめず話し始める。

胸に浮かぶのはとうとうと語っていた鉛丹の横顔。


「桔梗はメモリーズでも普通の生活をおくれるようにしたいって言ってたけどさ、雪はそういうの考えなかったの?」

将来を語ったときの桔梗のキラキラした目を思い出す。
もし自分だったら。
メモリーズを敵と決めつけた人間を恨むだろうな、と琥珀は思った。
違いなんてほとんどないのに。


「人間を恨んだりしなかったの?メモリーズって人間よりも身体能力高いんでしょ?それに、雪のお父さんみたく人間の記憶をごっそり奪える人もいる。復讐しようと本気で思えばできたんじゃないの?」

はらはらと数枚の紅葉が落ちていくのが見えた。



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