佳き日に
沈黙。
人間のくせにこんなことを言うのはおかしかっただろうか、と琥珀は思う。
でも、本心だった。
閏や琴、桔梗や鉛丹の顔が浮かぶ。
悪い人たちではなかった。
普通の人間と変わらない、たまに笑って、たまに怒って、一生懸命生きている。
なんで彼らの居場所を奪って、殺し屋や表の世界から外れた道でしか生きられないまでに追い詰めたのだろう。
当事者でもなんでもない、ただ関わっただけの琥珀には聞きかじりの情報しかないが、それだけでも人間の身勝手さがよく分かった。
怒ればいいのに。
怒れば、きっと変わるのに。
琥珀は膝の上で作った握りこぶしに力をいれた。
ひゅうっと、琥珀と雪の間を風が通り抜ける。
冷たい風に、輪郭のはっきりしない雪の声が聞こえた。
「何かの本で読んだんだ。」
寝ていると思っていたのだが雪は起きていたようだ。
「『泣くな、復讐しろ。最大の復讐は幸福な人生をおくることだ。』」
復讐。
琥珀はポツリとその言葉を口にする。
「どこかの国の格言らしい。どこの国のかは忘れたが。その言葉で怒りを暴力に変えて相手にぶつけるのは馬鹿らしいと思えた。だからと言って、何もやられっぱなしでいるつもりはない。閏も琴も俺も、人間から迫害されて泣き寝入りする性格じゃないからな。起きていることはもうどうしようもないんだから、開き直ってやりたいように生きていくことにしたんだ。」
雪の口ぶりは相変わらず淡々としていて、でもそこに冷たさは感じられなかった。