佳き日に
雨が降る生まれ故郷の街並みを歩きながら茜はそんなことを考えていた。
三ヶ月ほど出張のため家を空けていたせいか、外から見る茜の家はなんだか寂しげだった。
久しぶりの帰宅だというのに嬉しくない。
びしょ濡れになった郵便受け。
そこから湿った郵便物を取り出したとき、茜の手が止まった。
雨が降りしきる音も聞こえなくなった。
雨水によって滲んだ紺色の文字。
なつかしい筆跡。
最後の方がボヤけてしまっている。
だが、それは確かに雨の字だった。
鼻の奥がツンとする。
『君が幸せであれば僕はそれだけで』
それだけで、その後に続く言葉はなんだったのだろう。
もう知る術はない。
滲んでしまった文字はもう元通りの形に戻ることはないように。
ボタボタと、紙に大きな水滴が落ちる。
あんなに泣いたのに、私はまだ泣けるのか。
茜はゆっくりとその場にしゃがみこむ。
排水溝に流れていく水の中に、自分の涙が数滴まざっていくのが見えた。
“君が幸せであれば僕はそれだけで”