佳き日に

[5]


ツン、ではなくふわっと。

先ほどの女性の車に乗り込んだ瞬間、琴が感じたのは甘い香りだった。
ブルーベリーくらいの、神経を集中しなければ気づかないくらいの糖度。

助手席に座りサングラスを外す。
運転席には当たり前のように雪が座る。
エンジンをかけながら琴と携帯で話しているようだ。
器用だな、と閏は思う。


「閏。柳琥珀が見つかった。御学高校付近のファミレスにいたそうだ。」

「じゃあ、そこに向かいますか。」

「いや。バスに乗ったらしいぞ。琴が言うには、バスは俺たちがいる方へ向かってきてるらしい。」

「ツイてますね。」

本日二度目のその言葉。

閏は少し違和感を覚える。
問題がないのはいいことだ。
だが、失敗しないのと幸運が重なるのとでは、全く意味合いが違う。
事が上手く行き過ぎると、大抵後で何か起こる。
良くないことが、だ。


「多分バスは向こうのスーパーの近くに停まる。」

「行きますか?」

「あぁ。一応、拳銃用意しておけ。」

最後の雪の言葉に、雪先輩も自分と同じことを思っているのだろうか、と閏はぼんやり考えた。

窓からは穏やかな町の風景が見える。


慣れてしまったのか、車内の甘い匂いはもう感じなかった。



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